万年筆初心者の選び方|最初の一本で失敗しない3つのポイント

はじめての万年筆を選ぼうとして、
途中で手が止まったことは、ないだろうか。

価格も、ブランドも、ピンからキリまである。

ペン先の素材、字幅の記号、インクの入れ方。

調べれば調べるほど、知らない言葉が増えていく。

「こんなに複雑なら、
 自分にはまだ早いのかもしれない」。

そう思って、そっとページを閉じてしまう。

その気持ちは、よく分かる。

だが、安心してほしい。

万年筆のすべてを理解してから買う必要は、
まったくない。

最初の一本を選ぶだけなら、
見るべきところは、そう多くない。

この記事では、初心者が
「最初の一本で失敗しない」ための、
三つのポイントに絞って話す。

何に書くか。

字幅とペン先。

インクの補充方法。

ひとまず、この三つだけでいい。

最初の一本は、完璧を目指すより、
「大きく外さない」ことのほうが、
ずっと大切だ。

目次

初心者が最初の万年筆を選ぶときに大切なこと

まず、ひとつの思い込みを、外しておきたい。

「高いものを選べば、間違いない」。

残念ながら、これは半分しか正しくない。

値の張る万年筆は、
たしかに作りが良いことが多い。

だが、それが「あなたに合う一本」かどうかは、
まったく別の話なんだ。

太字の万年筆は、
手帳の小さなマス目には向かない。

ずっしり重い一本は、
長い手紙を書く手を、疲れさせるかもしれない。

どれほど上等でも、
使う場面に合っていなければ、
机の引き出しで、静かに眠ることになる。

だから、選ぶときの軸は、スペックの高さではない。

自分が、どこで、何を書くのか

ここから逆算していく。

それが、遠回りのようでいて、
いちばん確実な道だと思う。

ポイント1 まず「何に書くのか」を決める

最初に考えるのは、スペックではない。

あなたの、暮らしのほうだ。

その一本を、どこで、何のために使うのか。

手帳に、小さな予定を書き込むのか。

仕事のノートに、思考を走らせるのか。

夜、日記やジャーナルに向き合うのか。

誰かへの手紙を、したためるのか。

使う場面によって、心地よい一本は、変わってくる。

具体的には、三つを、思い浮かべてみてほしい。

これを確認してから、最初の一本を!

・何を書くか:
 短いメモが中心か、まとまった文章か。

・どのくらいの大きさの文字を書くか:
 手帳の細かい字か、ノートののびのびした字か。

・どんな紙に書くか:
 手帳や普通のコピー用紙か、
 万年筆に向いたなめらかなノートか。

たとえば、手帳に小さな字を書くことが多いなら、
細い字幅が向いている。

のびのびとノートに書くなら、
少し太めでも、気持ちよく走る。

この「暮らしからの逆算」ができていれば、
次のポイントは、ぐっと選びやすくなるはずだ。

ポイント2 字幅とペン先を確認する

次に見るのが、字幅だ。

ペン先が紙に置く、線の太さのこと。

アルファベットの記号で表され、
細いほうから、おおよそ次のように並ぶ。

太さを選ぶ、主な基準

・EF(極細):
 手帳や、小さなマス目の、細かい文字に。

・F(細字):
 ノートや手紙など、日常の文字に。
 使う場面が広い。

・M(中字):
 少し大きめの文字や、署名に。
 線に伸びが出る。

・B(太字):
 サインや、大きな文字を、ゆったり書くときに。

ここで、大切な注意が、ひとつある。

同じ「F」や「M」でも、線の太さや書き味は、
メーカーや製品によって変わる。

日本メーカーの字幅は、
海外メーカーより細めに感じられることもある。

ただ、メーカーやモデルによって違うので、
「Fなら、必ずこの太さ」とは、考えないほうがいい。

だから、記号だけを、絶対の基準にしないほうがいい。

できれば、文具店で試し書きをさせてもらうのが、
いちばん確かだと思う。

数行、自分の手で書いてみるだけで、
「あ、これだ」という感覚は、
案外はっきり分かるものだ。

とはいえ、近くに、万年筆を試せる店がない人も、
少なくないだろう。

その場合、最初から高価な一本を、
無理に選ぶ必要はない。

たとえば、パイロットのkakunoのような、
手頃な万年筆を一本、実際に使ってみる。

それも、たしかな方法のひとつだと思う。

何日か使っていると、
自分の手が、少しずつ教えてくれる。

「もう少し細いほうが好きだ」
「もう少し太いほうがいい」
「軸に、もう少し重さがほしい」。

そういう、自分なりの基準が、
ぼんやりと、輪郭を持ちはじめる。

実は、僕も最初に使った万年筆がkakunoだった。

そこから、
万年筆の魅力に取り憑かれていった経緯がある。

話を戻すと、最初の一本には、
「正解を当てる」だけでなく、
「自分の好みを知る」という役割もある。

だから、その一本が、たとえ完璧でなくても、
決して無駄にはならないんだ。

ペン先の素材についても、簡単に触れておく。

大きく、金のペン先と、
ステンレスのペン先がある。

ただ、書き味は、素材だけで決まるわけではない。

ペン先の形や厚み、その設計によっても、
大きく変わってくる。

だから、
「金だから必ずやわらかい」
「ステンレスだから必ず硬い」
とは、言い切れない。

どちらが優れている、という話でもない。

やわらかな書き味に惹かれる人もいれば、
しっかりした感触を好む人もいる。

素材の名前だけで決めつけず、
その製品そのものが、どう書けるか。

初心者のうちは、そこを見るほうが、確かだと思う。

ポイント3 インクの補充方法を確認する

三つめは、インクの入れ方――補充方法だ。

はじめのうちは、つい見落としがちだが、
毎日の使い心地に、静かに関わってくる。

方式は、大きく三つ。

万年筆のインク補充方法

・カートリッジ式:
 インクの入った小さな筒を、差し込むだけ。
 手軽で、扱いやすい。
 使える色は、その規格の範囲に収まりやすい。

・両用式(カートリッジ/コンバーター):
 カートリッジも使えるし、
 コンバーターという器具を付ければ、
 ボトルインクも吸える。
 手軽さと自由さの、両取り。
 入門向けの一本に多い。

・吸入式:
 本体内部の機構を使い、
 ボトルインクを直接吸入する方式。
 カートリッジを使わず、ボトルインクを楽しめる。
 そのぶん、補充や手入れには、少し手間がかかる。

これも、優劣ではない。

とにかく手軽に始めたいのか。

ボトルインクの、豊かな色を楽しみたいのか。

あるいは、インクを吸い上げる、
その所作までも、静かな時間として味わいたいのか。

あなたが、どこに惹かれるか、なんだと思う。

迷うなら、両用式が、間口として扱いやすいと思う。

カートリッジで手軽に始めて、
慣れてきたら、コンバーターでボトルインクへ。

一本で、両方の入り口を、持てるからだ。

価格やブランドより「また手に取りたいか」も大切

ここまでは、実用の話をしてきた。

最後に、もう少しだけ、
凛筆らしい視点を、加えさせてほしい。

万年筆は、スペックの表だけで選ぶ道具では、
たぶんない。

軸の太さや形。手に乗せたときの、重さの心地。

指に触れる、樹脂や金属の感触。

全体の、佇まい。

数字にはならないけれど、長く使う道具では、
こうした要素が、思いのほか効いてくる。

理屈で「良い」とされる一本より、
なぜか手が伸びてしまう一本のほうが、
結局、長く使われることがある。

「また、手に取りたい」。

そう思えるかどうか。

それも、立派な選定基準のひとつだと、
僕は思う。

もちろん、美しいデザインが、
あなたの行動や心を、必ず変えてくれるわけではない。

道具は、魔法ではないからだ。

ただ、机の上に、触れたくなる一本があること。

それが、「書こうか」と思うまでの、
ほんの少しの後押しに、なることはある。

最初の一本から、いつか「書き続けられる一本」へ

長くなったので、三つのポイントを、
そっとまとめておく。

最初の一本を選ぶポイント

・何に書くか:
 暮らしの場面から、逆算して選ぶ。

・字幅とペン先:
 用途に合わせて。
 ただし記号は目安、できれば試し書きを。

・インクの補充方法:
 手軽さか、
 ボトルインクの自由か、
 所作の楽しみか。

そして、いちばん伝えたいのは、これだ。

最初から、一生ものの、完璧な一本を
選ぶ必要は、ない。

使っていくうちに、少しずつ分かってくる。

自分は、細い字が好きなのか。

少し重いほうが、落ち着くのか。

この色のインクが、
思いのほか、しっくりくるな、とか。

その発見の過程そのものが、
万年筆という道具の、静かな面白さなんだと思う。

万年筆の良さは、
持っていること、そのものにはない。

それを手に取り、実際に紙へ、
言葉を置いていく――

その時間のなかに、ある。

良い道具は、人を魔法のように変えはしない。

だが、「また書こう」と思える行動を、
静かに支えてくれることがある。

そして、「また書こう」を後押しするのは、
スペックだけではない。

その道具が、どんな考えでつくられたのか。

それも、僕にとっては大切なことだ。

僕は以前、家具の設計や商品開発に携わっていた。

そこで感じていたのは、
価格にかかわらず、ひとつの製品には
「なぜこの形なのか」
「どんなふうに使ってほしいのか」という、
つくり手の意図があるということだった。

万年筆も、きっと同じだと思う。

その道具が生まれた背景や、
つくり手の考えにも共感できる一本なら、
手に取る時間は、少し違ったものになる。

僕は、そんな丁寧につくられた道具と、
長く付き合っていきたいと思っている。

自分がどこで、何を書きたいのか。

その使い方と、
一本の万年筆が持つ特徴や設計の考え方が
重なったとき、自然と「また手に取りたい」
そう思えるのではないだうか。

今日も、明日も、明後日もーー

手に取り続ける。

このことが何より大事だ。

その手に取り続けるためには、
作り手の想いを知ることも重要だ。

その道具が、どんな考えでつくられたのか。

僕は、そうした「作り手の意図」も、
長く使う道具を選ぶうえで大切だと思っている。

→ 関連記事:
デザインとは何か——思想・設計・意匠について

だから、最初の一本は、「すごい一本」でなくていい。

あなたが、また手に取りたくなる、
「書き続けられる一本」を、選んでほしい。

その一本と過ごす夜が、
あなたの言葉を、少しずつ育てていく。

書くことを続けるための、
自分に合った一本を選ぶ。

凛筆が大切にしているのは、
突き詰めれば、そのことだけだ。

明日もまた、机に向かいたくなる一本

そんな万年筆が、
いつかあなたの手元に届きますように。

自分の使い方に合う一本を、もう少し具体的に探したい方へ

ここまで話してきた
「どこで、何を書くのか」という視点から、
もう少し具体的な選択肢も、挙げておきたい。

どちらも、僕が使い続けている万年筆だ。

・仕事中に、思いついたことを、
 すぐ書き留めたい人へ。

ノック式で、ペン先をさっと出し入れでき、
仕事などの場面で、素早く書き始めやすい
「キャップレス」という選択肢がある。

・夜のノートや手紙など、
 日本語を、ゆっくり書く時間を楽しみたい人へ。

特徴的なやわらかさを持つペン先の「エラボー」は、
そういう時間に、静かに寄り添ってくれる一本かもしれない。

どちらが正解、というわけではない。

大切なのは、やはり、
あなたが、どこで、何を書くのか。

そこから、自分に合う一本を、
ゆっくり選んでいけばいいと思う。

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この記事を書いた人

店主のすぎやまです。
僕は、武蔵野美術大学 建築学科卒後、家具メーカーにて家具の商品開発や設計の仕事に従事して来ました。その後、福祉業界に転職します。
家具メーカーでは、「モノ」と向き合い、福祉業界では「ヒト」と向き合って来ました。
僕は、良いデザインは、思想・設計・意匠」が有機的に融合していると感じます。
また、そのことは、ヒトの行動にも同じことが言えるのではないかと考えるようになりました。
特に、行動を継続するためには、なぜそうするのか?という意思(思想)とやり易い仕組み(設計)が必要です。
その結果として、行為そのものに充足感が得られ、所作が美しくなる(意匠)と考えるようになりました。

『凛筆』は、万年筆という「道具」と、習慣化の「仕組み」を使って、あなたの毎日を美しく整える(デザインする)ための場所です。

13,000文字に込めた、僕のこれまでの経歴と「店を始めた本当の理由」をぜひご一読ください。

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