万年筆のペン先は金とステンレスどちらがいい?元家具設計士が語る「育つ」という価値

万年筆を初めて手にしようとしている人に、僕はこういうことにしている。

「まず、kakunoを買ってみてください」と。

PILOTが作るこの万年筆は、1,000円程度で買える。 ペン先はステンレス製。 インクはカートリッジ式で、交換も簡単だ。

これが、万年筆の入り口として、非常によくできている。

実際、僕が初めて万年筆を手にしたのはkakunoだった。

今では、数千円で買える万年筆は、とても多く販売されている。

千円以下で買えるものさえある。

目次

1,000円のステンレスペンが教えてくれる「現実」

その様な万年筆のステンレスのペン先は硬い。

カリカリとした、紙との摩擦を感じながら書く。

その摩擦が、「今、自分は文字を書いている」という確かな感覚を与えてくれる。

書き心地が悪いわけじゃない。

むしろ、道具としては非常に優秀だ。

ただ、ステンレスは絶対に形を変えない。

何年使っても、どんな角度で書いても、ステンレスのペン先は自分の形を保ち続ける。

書き手が、ペンに合わせるしかない。

それは、会社の会議室に並んだパイプ椅子に似ていると思う。

座る人間の体型に関係なく、椅子は椅子の形のままだ。

人間が、椅子に合わせて座る。

合理的で、効率的で、清廉だ。

でも、長時間座り続けると、どこかが痛くなる。

このことは、会議を早く終わらせるのに役立つという最大の利点を持つ。

ステンレスのペン先は、そういう道具だ。

優秀で、合理的で、文句のつけようがない。

でも、自分からは一ミリも動かない。


あなたが合わせるのか、道具があなたに合わせるのか

しかし、少し考えてみてほしい。

あなたは今日、何回「自分を曲げた」だろうか。

納得できない上司の判断に、「わかりました」と頷いた。

部下のペースに合わせて、自分の段取りを変えた。

会議では、本当に言いたいことを飲み込んだ。

家に帰れば、妻の空気を読んで、疲れた顔を隠した。

朝から夜まで、誰かに合わせ続けている。

自分を曲げることに、もう慣れすぎてしまっているかもしれない。

それが当たり前になりすぎて、自分がどんな形をしていたのか、わからなくなっている人もいるんじゃないかと思う。

だから、夜、自分の机に向かった時くらい、
ペンに合わせるんじゃなくて、
ペンがあなたに合わせてくれる道具を持っていてほしい。

そう、僕は思っている。


金(14K・18K)という「無垢材」の受容力

金がペン先に使われる理由は、いくつかある。

インクに含まれる成分への耐腐食性。

ステンレスに比べた時の、しなやかな弾力性。

そして、加工のしやすさ。

でも、僕が金ペンに惹かれる最大の理由は、そこじゃない。

金ペンは、使い手に合わせて育っていくからだ。

金はステンレスより柔らかく、しなやかな弾力性を持っている。

書くたびに、筆圧や角度に合わせて、ニブがわずかにしなる。

強く押さえて書く人には、その圧力を受け止めるしなりが生まれる。

軽く走らせるように書く人には、その軽さに応える繊細な弾力が返ってくる。

ステンレスは硬いため、このしなりがあまりない。

書き手が、ペンに合わせるしかない。

金ペンは、書くたびにあなたの癖を受け止めながら、しなってくれる。

そして、そのしなりに合わせて、ペンポイントのイリジウムが少しずつ削れ、形状を変えていく。

ペン先の先端には、イリジウム合金のペンポイントが溶接されている。

このペンポイントは非常に硬く、簡単には削れない。

しかし、何年も使い続けることで、少しずつ、書き手の筆圧や筆記角度に合わせて削れていく。

右に傾けて書く人のペンポイントは、右側がわずかに削れる。

寝かせ気味に書く人のペンポイントは、腹の部分が削れる。

長年使い続けた結果、そのペン先はあなたの筆記角度や癖が刻み込まれていく。

結果として、気づいた時には、世界にたった一本の「あなたのペン先」になっている。

万年筆愛好家たちが「育つ」と呼ぶのは、このことだ。

僕は家具の設計をしていた頃から、無垢材が好きだった。

無垢材とは、合板や集成材ではなく、木をそのままの状態で使った素材のことだ。

特にオイル仕上げが施された無垢材は、使い込むほどに、手の脂を吸い、飴色に変わっていく。

傷がついても、それが味になる。

そして、使う人の生活の形に、少しずつ馴染んでいく。

量産品の合板家具は、買った瞬間が完成形だ。

そこから先、変化しない。

むしろ、劣化していく。

でも、無垢材の家具は違う。

使い込むほどに、その人だけの家具になっていく。

金ペンも、全く同じだと思っている。

買った瞬間は、まだ完成していない。

あなたが使うで、初めて完成する。

いや、使い込むことで徐々に完成へと向かっていくという表現の方が正しい。

それは、あなたの書き癖を、丸ごと受け入れながら形を変えていく「オーダーメイドの相棒」だ。

福祉の現場で、僕はこういうことを学んだ。

相手を変えようとする支援は、長続きしない。

相手の形に合わせて、こちらが寄り添っていく。

その姿勢が、相手の心を少しずつ開いていく。

金ペンは、そういう道具だと思う。

書き手を変えようとしない。

ただ、静かに寄り添いながら、使い手の形に自分を変えていく。


凛筆が、あえて「金」の万年筆を提案する理由

凛筆では、PILOTのキャップレスやエラボーといった、金ペンを中心に取り扱っている。

安くはない。

それでも、僕がこれらを推奨するのは、高級志向からじゃない。

自分に合わせてくれる道具を持つことが、すり減った大人の心をどれほど救うか。

それを、身をもって知っているからだ。

1,000円のステンレスペンは、優秀だ。

万年筆の入り口として、これ以上ない選択肢だと思っている。

でも、毎日誰かに合わせ続けて、自分の形がわからなくなりそうな夜に手にするべき道具は、また別のものだと思う。

あなたに合わせてくれる道具。

あなたの書き癖を、欠点ではなく個性として受け入れてくれる道具。

使えば使うほど、あなただけの形になっていく道具。

それが、金ペンだ。

一方、ステンレスは「社会の合理性」だ。

効率的で、均一で、誰にでも同じように機能する。

でも、金ペンは違う。

あなたが使い込んだ分だけ、あなたの形になっていく。

家に帰って、自分の机に向かう時間。

誰かに合わせなくていい、その時間に手にする道具が、自分に合わせてくれるものであるということ。

それだけで、少し、息ができる気がしないだろうか。

僕は、そう信じてこの一本を選んだ。

そして、その一本を、あなたに届けたいと思っている。

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この記事を書いた人

店主のすぎやまです。
僕は、武蔵野美術大学 建築学科卒後、家具メーカーにて家具の商品開発や設計の仕事に従事して来ました。その後、福祉業界に転職します。
家具メーカーでは、「モノ」と向き合い、福祉業界では「ヒト」と向き合って来ました。
僕は、良いデザインは、思想・設計・意匠」が有機的に融合していると感じます。
また、そのことは、ヒトの行動にも同じことが言えるのではないかと考えるようになりました。
特に、行動を継続するためには、なぜそうするのか?という意思(思想)とやり易い仕組み(設計)が必要です。
その結果として、行為そのものに充足感が得られ、所作が美しくなる(意匠)と考えるようになりました。

『凛筆』は、万年筆という「道具」と、習慣化の「仕組み」を使って、あなたの毎日を美しく整える(デザインする)ための場所です。

13,000文字に込めた、僕のこれまでの経歴と「店を始めた本当の理由」をぜひご一読ください。

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